体を動かすとお腹が空く、なんて言われますが、
実は練習をすると食欲が落ちることが
科学的に証明されています。
「ご飯を食べないといけないのは分かっているけど、食べられない」
こんな悩みを持っている選手も多いかもしれません。
この記事では、練習後にはどうして食欲が落ちるのか、
練習後に食欲が落ちた時の対策などを紹介します。
前半は、どのように食欲が調節されているのか、
どうして練習で食欲が落ちるのかを
少し詳しく解説しています。
後半では、食欲が落ちた中で、どのような対策を取ると
しっかりエネルギー補給ができるのかを解説しています。
とにかく対策法を知りたい、という方は
前半は軽く読み流して後半をしっかり読んでみてください。
食欲の調節機構
まずは簡単に、食欲はどのようにして
調節されているのかについてお話します。
摂食中枢、満腹中枢なんていう言葉を
聞いたことがあるかもしれません。
これらは脳の視床下部という部分にあり、
この部分が活動することで、食欲を調節しています。
それでは摂食中枢、満腹中枢は
どのようにして活性化されるのでしょうか。
図にして表してみました。
食欲は脳で調節されていますが、
胃や小腸、脂肪からホルモンが分泌されたり
血糖値の上下動によって
食欲が調節されています。
胃からはグレリンというホルモンが分泌されますが、
このホルモンは、唯一食欲を増進させるホルモンです。
それ以外のコレシストキニンやGLP-1、PYY、レプチンは
いずれも食欲を抑えるホルモンです。
また血糖値が上昇すると食欲が抑えられ、
血糖値が低下すると食欲が増進します。
ダイエットをしていると空腹感に耐えきれず
イライラしてしまいついどか食いしてしまう、
なんていうことがありますが、
それは過度に糖質を制限したり食べる量を減らしたりして
低血糖状態に陥っているから起こることなのです。
練習後に食欲がないのはどうして?
練習後はなかなか食欲が沸かないかもしれませんが、
どうして練習後には食欲が落ちるのでしょうか。
それには、胃や小腸から分泌されるホルモンが
関係しています。
運動により食欲調節ホルモンが変動する
運動を行うと、食欲を増進させるホルモンである
グレリンの分泌量が低下します。
特に高強度な運動を行うと、グレリンの分泌量が低下します。
(引用: Broom et al., 2007)
この図は、運動をしない人(Control)と高強度運動を行う人(Exercise)で
3時間(3h)、9時間(9h)の合計でグレリンがどれだけ分泌されたかを
表しているグラフです。
3時間、9時間ともに高強度運動を行った人の方が
グレリンが多く分泌されているという結果でした(Broom et al., 2007)。
つまり、高強度運動を行うことで、グレリンが分泌され
食欲が落ちてしまうのです。
また高強度運動を行うことで、食欲を抑える
PYYやGLP-1の分泌量が増加します(Ueda et al., 2009)。
つまり食欲を抑えるホルモンが増加して
運動後には食欲が低下します。
高強度運動では、特にグレリンの分泌量が大きく低下しますが、
ランニングのような有酸素運動でもグレリンが低下し
PYYやGLP-1などは増加することで
食欲が抑えられることが分かっています。
1日の摂取エネルギーも低下する
運動直後に食欲を調節するホルモンが変動し
運動後には食欲が沸かなくなってしまいます。
それに伴い、1日のエネルギー摂取量も
影響を受けます。
特に高強度運動を実施すると、
1日のエネルギー摂取量は大きく低下します。
(引用: Sim et al., 2014)
上の図は1日のエネルギー摂取量を表した図で、
CONは何もしなかった人、VHIはかなり強度の高い運動をした人です。
高強度運動を実施すると、1日のエネルギー摂取量は
顕著に低下していますね。
アスリートは練習で大きくエネルギーを消費するので、
その分をしっかり食事から補いたいです。
しかも、運動後2時間は、筋肉がエネルギーを
蓄えやすい状態になっているので、
できればこの時間にエネルギーを摂取したいのですが、
この時間はグレリンが減少し、PYYやGLP-1などが
分泌されている時間帯で食欲が抑えられているので、
食欲が沸かずエネルギー補給が難しいです。
ダイエットをする人からすると、運動をすることで
エネルギーも消費できて食欲も落ちるので、
とてもいいことですね。
しかしアスリートからすると、
練習のためにエネルギーを蓄えたいが、
練習を行うことで食欲が低下し、
エネルギーを補えなくなるので、大きな問題なのです。
運動をすると食欲が湧く、と思われがちですが、
実は運動は食欲を抑える、ということを
少し詳しくお話してきました。
練習後に食欲がない時の対処法
さて、ここからはその解決法についてお話します。
練習はしっかりと高い強度の運動を行わないと
トレーニングの効果が表れません。
そして高い強度で運動を行うと食欲が落ちます。
なので、練習後に食欲が出ないのは仕方ないことです。
食欲がない中でどのように食べるといいのかを考えていきましょう。
そのための対策法としては、次の3つが挙げられます。
2, 味付けを工夫する
3, 食事のタイミングを変える
固形物を避ける
まずは、固形物を避けるという対策が考えられます。
食欲がない中でムシャムシャと噛んで
ご飯を食べるのは、結構辛いので、
つるつると食べられる麺類だったり
噛まずに食べられるおかゆなどだと、
食欲がなくても比較的食べられます。
できれば食事からエネルギーを補いたいですが、
どうしても食事が食べられないなら、
ゼリーなどからエネルギーを補いましょう。
運動直後にもエネルギー補給をしたいので、
運動直後にはゼリーなんかはいいですね。
ドリンクからエネルギーを補給するのもありです。
その場合は、オレンジジュースなど糖質が多く
含まれているドリンクを選ぶようにしましょう。
冷たすぎると飲みづらいので、
冷蔵庫には入れず常温で飲むと飲みやすいです。
味付けを工夫する
食事の味付けを工夫することで
食欲がない中でも比較的食べやすくなります。
食欲を増進させる食べ物は、辛いものです。
唐辛子やわさび、コショウ、スパイスなどは
食欲を増進させる成分が含まれているのです。
カレーなんかはスパイスがたっぷりなので
食欲がなくても、一度食べれば食が進みます。
酸味のあるレモンや柚などの柑橘類、梅干し、お酢なども
食欲を増進させる働きがあります。
おにぎりに梅干しを入れたり、
酢飯を作ってお寿司を食べたり
うどんに柚やレモンを絞って入れたり。
こうした工夫をしてあげると、
食欲がない中でも比較的食べやすくなります。
食事のタイミングを変える
練習後には食欲が大きく低下します。
いつも練習の後に晩ご飯を食べていて、
それがなかなか食べられずに悩んでいるなら、
思い切って練習前にご飯を食べるというのもありですね。
下の図のようなスケジュールです。
ただし、練習直前に食べすぎると練習ができなくなるので、
練習の2〜3時間前には食べ終わるくらいのタイミングに
食事をするようにしてみましょう。
また、晩ご飯でたくさん食べられない分、
朝食、昼食でしっかり食べておく、という対策も取れます。
練習直後にはゼリーなどから軽くエネルギーを補給し
晩ご飯は食べられそうなら少し食べる、というようにすると
食欲がない中で無理やり食べる、ということが少なくなります。
このようにしてあげると、1日のエネルギー摂取量は
減らすことなく、そして食欲がない中でも
しっかりエネルギーを補給することができるようになります。
練習後に食欲がないのは仕方ない
練習後には、どうしても食欲が落ちます。
特に高強度運動を行うと食欲が落ちるので、
アスリートにとっては大きな問題です。
食欲が落ちる理由は、運動により
食欲を増進させるグレリンが減少し、
食欲を抑えるPYYやGLP-1が分泌されるからでした。
食欲がない中無理やり食べるのは、精神的にキツので
2, 味付けを工夫する
3, 食事のタイミングを変える
この3つの対策で、食欲がない中でも
エネルギーを摂取できる工夫をしましょう!
参考文献
Sim et al (2014) Exercise-induced suppression of acylated ghrelin in humans
Broom et al (2007) Exercise-induced suppression of acylated ghrelin in humans
Ueda et al (2009) Comparable effects of moderate intensity exercise on changes in anorectic gut hormone levels and energy intake to high intensity exercise
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