乳酸は疲労の原因??乳酸は疲労物質ではなかった! | Sports Nutrition Lab

乳酸は疲労の原因??乳酸は疲労物質ではなかった!

運動生理学

 

 

激しい運動をすると、「乳酸が溜まった」なんてよく言いますよね。テレビのスポーツ実況でも、「乳酸が溜まって疲労困憊です」なんて言われたりします。

 

確かに激しい運動をすると、乳酸はたくさん作られます。しかし、乳酸は疲労の原因ではないことが、最近の研究で分かっています。

 

そもそも乳酸とは一体どのような物質で、どんな役割を果たしているのでしょうか?また、乳酸はどうして疲労物質ではないのでしょうか。

 

 

この記事を書いた人
栄養データアナリスト 中野卓

東京大学総合文化研究科卒業
スポーツ栄養学博士前期課程修了
大学まで20年間競泳をしてきた。背泳ぎ・バタフライ専門。
現在は水泳選手を中心に栄養データから食事のアドバイスを行っている。
Twitter、Instagramでも情報発信中!!

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乳酸は糖が分解されてできる物質

 

 

まずは、乳酸が一体どのような物質なのかについてお話していきます。

 

乳酸は、次の画像のような構造をしています。

 

 

・・・

 

これだけ見せられても何のことか分かりませんね…!

 

乳酸はこんな形をしているのですけど、体内では糖質を分解することで乳酸が作られています。

 

ちなみに糖質(グルコース)はこんな形をしています。

 

 

 

筋肉では、この六角形の物質がたくさん結合した状態で蓄えられています。

 

グルコースは、

 

 

グルコース→→→ピルビン酸→乳酸

 

 

と変わっていきます。

 

この経路を解糖系と言います。乳酸の手前のピルビン酸は、通常は筋肉のエネルギー工場であるミトコンドリアに運ばれて、水と二酸化炭素に分解されます。

 

しかし、ミトコンドリア(工場)の数には限りがあります。激しい運動を行うと、エネルギーをたくさん作るために糖質がたくさん分解され、ピルビン酸もたくさんできます。

 

ピルビン酸が工場に入りきらなくなると、ピルビン酸は乳酸へと変えられるのです。

 

つまり、乳酸は激しい運動をして、糖質がたくさん使われている時にできる物質なのです。

 

乳酸は疲労物質じゃない理由

 

 

一昔前までは、激しい運動をすると血中の乳酸濃度が上昇し、それに伴い疲労度も上昇するので、乳酸が疲労物質だと言われていました。

 

しかし、近年は様々な研究により、乳酸は直接的に疲労を引き起こしている物質ではないことが分かっています。

 

乳酸が疲労物質ではないことを、データを示しながら紹介していきます。

 

 

 

サッカーの試合後半に乳酸濃度が減少

 

 

上の図をご覧ください。上の図は、サッカーの試合中に血中の乳酸濃度がどのように変化しているかを表した図です。横軸が時間、縦軸が乳酸濃度を表しています。

 

サッカーの試合前半には、血中の乳酸濃度は高く出ていますね。しかし、試合の後半には、血中乳酸濃度は低くなっています。

 

サッカーの試合の前半と後半、どちらが疲れますか??

 

後半の方がしんどいですよね。

 

しかし、しんどいはずなのに乳酸は出ていません。乳酸が疲労物質だったら、後半にたくさん乳酸が出ていないといけないですよね。

 

サッカーの試合後半で乳酸が低いのは、前半で糖質をたくさんエネルギーとして使い、後半にはエネルギーになる糖質が少なく、乳酸が作られなかったからです。

 

このことから、乳酸が疲労物質ではないことがわかりますね。

 

 

 

標高が高いと乳酸が低い

 

次に登山の研究を紹介します。

 

登山をして山の頂上に近づくと、酸素が薄くなっていくので、どんどんしんどくなっていきますよね。

 

もし乳酸が疲労物質だったら、山の頂上ではたくさん乳酸が出るはずです。

 

ではこちらの図をご覧ください。

 

 

この図は、標高1300m, 1800m 2200mで同じ強度の運動を行ってもらった結果で、左は血中乳酸濃度、右は主観的なきつさを表しています。

 

実験の結果、標高が高いところの方が、同じ強度の運動をするとしんどいはずなのに、乳酸があまり出ていません。この結果からも、乳酸は疲労物質ではないことがわかります。

 

 

乳酸の意外な役割

 

このように、乳酸は以前は疲労物質と言われていましたが、実は直接疲労には関わっていないことがわかってきました。

 

それでは乳酸は体内でどのような働きをしているのでしょうか?

 

 

エネルギー源

 

筋肉には、収縮速度は速いが持久力は乏しい速筋繊維と、収縮速度は遅いが持久力がある遅筋繊維の2つのタイプがあります。

 

乳酸は、主に速筋繊維で作られているのですが、たくさんできた乳酸は血液を通って肝臓や遅筋繊維へと届けられます。

 

遅筋繊維にはミトコンドリアがたくさんあります。そのため、乳酸を再びピルビン酸に変えて、ミトコンドリアでエネルギーに変えます。

 

肝臓では、乳酸を糖質(グルコース)に変える糖新生という反応が行われます(コリ回路)。

 

このように、乳酸は筋肉でエネルギーとして使われたり、肝臓でエネルギー源として蓄えられるのです。

 

 

ミトコンドリア生合成

 

 

乳酸は、筋肉のエネルギー工場であるミトコンドリアを増やす働きがあることも、最近分かってきました。

 

激しい運動をすると、身体は今以上にエネルギーを作る必要があると感じて、「ミトコンドリアを増やせ!」というサインを出します。

 

実は乳酸も、そのサインを出す役割を担っていたのです。

 

 

この図は、ミトコンドリアの中に含まれている酵素の活性を表しています。

 

LACが乳酸を与えたグループ、CONが乳酸を与えていないグループですが、乳酸を与えたグループの方が、ミトコンドリアの酵素活性が高い、つまりミトコンドリアが増えているということが分かります。

 

乳酸は疲労物質ではなかった!

 

以前までは「乳酸は疲労物質」と言われていましたが、実は乳酸は疲労物質ではないことが最近の研究でわかってきました。

 

乳酸は糖質を分解した時にできる物質で、疲労物質というより、むしろエネルギーとして使われたり、ミトコンドリアを増やしたりといい働きがあるのです。

 

身体のことについて学びを深めると、とてもおもしろいですよね!

 

 

参考文献

Takahashi K et al., 2019. Effects of lactate administration on mitochondrial enzyme activity and monocarboxylate transporters in mouse skeletal muscle. Physiol Rep, 7, 17 e14224.

 

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